一人きりでの店舗運営を考えている場合、あらかじめ心しておくべきこと

一人きりで将来従業員の雇用もしない開業相談を受けることがあります。
この場合、事前にわかっておくべきこと、想定しておくべきことがあります。

まず、一人きりでの運営ではある一定以上の売上を上げることができないということ。
例えば、美容室なら月間100万円以上をコンスタントに続けていくことは難しいでしょう。
そして、自分に何かあったら、店舗運営を続けることができないということ。

私は常に開業から10年以上の運営を前提とした独立開業を呼びかけていますが、中には、10年間を迎えることなく退店となった事例もあります。

経営不振により退店するという事例は問題ですが、この事例は経営不振が理由ではありませんでした。
それが開業時から一人きり運営を目指した女性美容師さんの実例です。

彼女は開業から8年間、非常に優良な運営を続け、地域でも大変人気の美容室として知られ、非常に多くのお客さまたちに愛される開業オーナーさんでした。
やがて、結婚した後も変わらず順調な運営を続けていましたが、8年目にさしかかった頃、やむを得ず彼女はお店を退く決心をしたのです。
妊娠したため出産を機に出身地である遠方に帰ることになったのです。

彼女の決断はもちろん大変悩んだ上でのものだったと思いますが、子育て専念と両親の元に帰ると決め、絶好調だった店を手放し他人に譲渡することにしたのです。

彼女の開業時にとても密に関わった私は、そのお店のお別れ会にも招待されました。
8年前には想像できなかったほど多くのお客さまが集まり、開業オーナーさんとの別れを惜しんで泣いている方もいました。
「お店辞めないで!・・・これから私はどこの美容室に行けばよいの・・・」
という熱烈ファンのお客さまの多さにとても驚かされ、なにより彼女の人気の凄さに圧倒されました。とても感動的なお別れ会でした。

お別れ会で、彼女に実際の8年間の売上を聞いてみました。
毎月70~75万円の売上げを続けたお店でした。
一人きりの運営で、この売上額はとても優秀な数字です。
この売上は結果的に8年間、落ちることもなく、上がることもなく、常に安定した運営だったそうです。
私は、彼女以外にも1名のみの開業事例に何件も関わりましたが、一人きりでの運営では売上100万円を超えることは稀でした。

お別れ会の時に、彼女にこんな質問をしてみました。
「無理してお客さまをさらに詰め込んで対応したら売上はそれ以上に上げられた?」
「これ以上は絶対に無理です。これ以上受け入れたら、身体を壊してしまったと思うし、お客さまへの施術がいい加減になるからダメです。私は売上額で十分満足でしたから。
これ以上の数をやる気もありませんでしたよ。8年間楽しく運営させてもらいました。」
としみじみ語ってくれました。

出産を機に退店と里帰り。これは、もちろん彼女自身の最良の決断です。

しかし、「もしも・・・」を想像してみましょう

もしも・・・8年の期間の間に彼女が従業員を育て上げる様な運営にシフトしていたら?
もしも・・・彼女が施術から離れ、マネージメントに徹するような立ち位置になれていたら?

たとえ、遠方に帰った後でも、子育てをしながらでも、何らかの形で店舗存続の方法は得られたかもしれないのです。

今回の事例は女性の事例。現在の社会情勢では、残念ながらが女性のほうが、開業時から変わらないサイクルで業務がこなせなくなる可能性は男性より高いと思います。
しかし、突然働けなくなる可能性は男性でもあり得るもの。
突然の事故や病気など、誰でも開業時は想定していなかった、人生における環境の変化により不本意ながらも運営を継続できなくなることもあるのです。
一人きりでの店舗運営を考える場合は、こういった未来もありうると覚悟して臨む必要があるのです。

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